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取引先に内緒でファクタリングする法的限界

「資金繰りが少し厳しい…でも、取引先にだけは知られたくない」。

経営者の方なら、一度はそう思ったことがあるかもしれません。

こんにちは。
元・金融機関で10年以上、法務を担当しておりました三浦結衣です。

現在は法務ライターとして、中小企業の経営者様向けに、契約や資金調達に関する記事を書いています。

「取引先に内緒で資金調達したい」というニーズに応えるサービスとして、ファクタリングは非常に注目されていますよね。

特に、利用者とファクタリング会社の2社だけで契約が完結する「2社間ファクタリング」なら、取引先に知られずに済む、と耳にすることも多いでしょう。

ですが、本当にそうなのでしょうか?

実際の金融法務の現場では、「内緒のはずが、かえって大きなトラブルになってしまった…」というケースも残念ながら少なくありません。

この記事では、教科書通りの解説ではなく、私が現場で見てきた実態と法律の本当の関係について、包み隠さずお話しします。

この記事を読み終える頃には、あなたは「内緒でファクタリング」に潜むリスクを正しく理解し、ご自身の会社にとって本当に安全な選択ができるようになっているはずです。

ファクタリングとは?基本の確認 🤔

まずは、基本からおさらいしましょう。
言葉は聞いたことがあっても、その仕組みを正確に理解しておくことが、リスクを避ける第一歩になります。

ファクタリングの仕組みと種類

ファクタリングとは、一言でいえば「売掛金(請求書)の前払いサービス」です。

取引先への請求書(売掛債権)をファクタリング会社に買い取ってもらうことで、支払期日よりも早く現金を手に入れることができます。

このファクタリングには、大きく分けて2つの種類があります。

  • 2社間ファクタリング
    • あなた(利用者)とファクタリング会社の2社間で契約します。
    • 取引先への通知や承諾は必要ありません。
    • 取引先から入金されたお金は、あなたがファクタリング会社へ支払います。
  • 3社間ファクタリング
    • あなた、ファクタリング会社、そして取引先の3社間で手続きを進めます。
    • 取引先に「債権をファクタリング会社に譲渡しますよ」と通知し、承諾を得る必要があります。
    • 取引先は、ファクタリング会社へ直接支払いを行います。

債権譲渡とファクタリングの関係

ここで少し法律の話をさせてください。

ファクタリングは、法律上「債権譲渡(さいけんじょうと)」という契約にあたります。

なんだか難しく聞こえますが、要するに「あなた(会社)が持っている『取引先からお金をもらう権利(=債権)』を、ファクタリング会社に譲り渡しますよ」ということです。

この「債権譲渡」というキーワードが、後ほど解説するリスクを理解する上で非常に重要になります。

なぜ内緒で利用したいのか?現場でよくある背景

では、なぜ多くの経営者の方が「取引先に内緒で」ファクタリングを利用したいと考えるのでしょうか。

私が金融機関にいた頃、経営者の方々からお聞きした理由は、主に次のようなものでした。

「資金繰りが悪化していると知られたら、今後の取引を減らされるかもしれない…」
「ファクタリングの利用=経営が危ない、というイメージを持たれたくない」
「長年の付き合いがある取引先に、心配をかけたり、手続きで手間をかけさせたりしたくない」

このようなお気持ち、痛いほどよく分かります。
事業を守るため、そして大切な取引先との信頼関係を守るために、内密に手続きを進めたいと考えるのは当然のことです。

通知義務と同意の法的ポイント 💡

「内緒にしたい」という気持ちと、法律上のルール。
このギャップを正しく理解することが、トラブルを避けるための鍵となります。

債権譲渡における通知・承諾の必要性

日本の法律(民法)では、債権譲渡について大切なルールが定められています。

それは、「債権を譲渡したことを、お金を支払う側(取引先)や、他の第三者(例えば、別の債権者など)に主張するためには、ちゃんとした手続きが必要ですよ」というものです。

具体的には、以下のいずれかが必要となります。

  • 確定日付のある証書による「通知」:あなたから取引先へ、内容証明郵便などで「この債権はファクタリング会社に譲渡しました」と知らせること。
  • 確定日付のある証書による「承諾」:取引先から「債権が譲渡されることを承知しました」という承諾をもらうこと。

つまり、この手続き(通知か承諾)がないと、ファクタリング会社は取引先に対して「お金をこちらに支払ってください!」と法的に主張することができないのです。

民法と債権譲渡登記制度の基礎知識

「じゃあ、通知が必要なら、2社間ファクタリングは法律違反なの?」と不安に思われたかもしれません。

ご安心ください。
そこで登場するのが「債権譲渡登記」という制度です。

これは、法人が債権譲渡を行った際に、法務局で登記をすることで、先ほどの「確定日付のある証書による通知」があったのと同じ効果を持つ、という特別な仕組みです。

多くの2社間ファクタリングでは、この登記制度を利用することで、取引先に直接通知することなく、ファクタリング会社が法的な権利を確保しています。

「黙って譲渡」はどこまで許される?

ここまでをまとめると、債権譲渡登記を使えば、取引先に通知せずにファクタリングを利用すること自体は、法的に可能です。

しかし、それはあくまで「ファクタリング会社が自社の権利を守るための手続き」に過ぎません。

あなたが取引先との間で結んでいる契約や、これまでの信頼関係といった、法律とは別の次元で問題が起こる可能性が残っているのです。

実務で起こるトラブルとリスク ⚠️

ここからは、私が実際に現場で見聞きした、最も注意していただきたい点についてお話しします。
「バレなければ大丈夫」という考えが、いかに危ういかをご理解いただけるはずです。

通知しなかった場合に起こりうる紛争例

2社間ファクタリングでは、取引先から入金されたお金を、あなたがファクタリング会社に送金する流れになります。

もし、この送金が少しでも遅れたらどうなるでしょうか?

【実際にあったケース】
A社は、売掛金をファクタリングで資金化しました。
その後、取引先からの入金がありましたが、別の支払いに充ててしまい、ファクタリング会社への送金が遅れてしまいました。

連絡が取れなくなったA社に代わり、ファクタリング会社は権利を守るため、取引先に直接電話をかけました。
「A社様の売掛金は、弊社が譲り受けております。至急こちらにお支払いください」

これを知った取引先は、「なぜそんな大事なことを黙っていたんだ!」と激怒。
A社は資金繰りの悪化を知られただけでなく、長年の信頼関係まで失ってしまいました。

これは、決して珍しい話ではありません。
「バレない」はずの2社間ファクタリングが、最もバレてほしくない形で発覚してしまう典型的なパターンです。

二重譲渡や詐害行為とみなされるケース

絶対に手を出してはいけないのが、「二重譲渡」です。

これは、同じ請求書(売掛債権)を、複数のファクタリング会社に売却してお金を得ようとする行為です。

これは単なる契約違反ではなく、詐欺罪という犯罪にあたる可能性が非常に高いです。

また、会社の経営がすでに傾いている状態で、特定のファクタリング会社にだけ債権を譲渡すると、「詐害行為(さがいこうい)」とみなされ、他の債権者から契約を取り消されてしまうリスクもあります。

取引先との信頼関係に与える影響

法律論以上に大切なのが、ビジネスの根幹である「信頼」です。

もし、何かのきっかけでファクタリングの利用が取引先に知られた場合、相手はどう感じるでしょうか。

「黙って債権を他に売られていた」
「もしかして、うちの会社は信用されていなかったのだろうか?」

たとえ法律的に問題がなくても、一度生まれてしまった不信感を拭い去るのは、容易ではありません。
目先の資金繰り以上に、長期的な事業の基盤を揺るがしかねないリスクなのです。

法的にセーフな運用のためのチェックポイント ✅

では、どうすればリスクを最小限に抑え、安全にファクタリングを活用できるのでしょうか。
経営者が確認すべきポイントをまとめました。

取引先にバレないファクタリングは本当に可能か?

私の結論から言えば、「絶対にバレない保証はない」です。

債権譲渡登記は誰でも情報を閲覧できるため、取引先が偶然見つけたり、調査会社によって調べられたりする可能性もゼロではありません。

大切なのは「バレるか、バレないか」と考えるのではなく、「バレたらどうするか」まで想定し、誠実に対応できる準備をしておくことです。

専門家に確認すべき契約条項

ご自身の会社と取引先との間で交わしている「業務委託契約書」や「取引基本契約書」を、今一度よく確認してください。

その中に「債権譲渡禁止特約」という条項はありませんか?

民法改正で、この特約があっても債権譲渡自体は有効になりましたが、特約の存在を知りながら債権を譲り受けたファクタリング会社に対しては、取引先が支払いを拒否できます。

何より、契約違反であることに変わりはなく、信頼を損なう大きな原因になりますので、契約前の確認は必須です。

法的リスクを抑える工夫と実務上の配慮

リスクを抑える最大の工夫は、信頼できるファクタリング会社を選ぶことに尽きます。
手数料の安さだけで選ぶのは危険です。

あなたの状況を親身にヒアリングし、法的なリスクについてきちんと説明してくれるパートナーを選びましょう。

そして、2社間ファクタリングを利用する際は、回収金の管理を徹底してください。
取引先から入金されたお金は、あくまで「ファクタリング会社から預かっているお金」です。
自社のお金と混同しないよう、入金されたら即座に送金するなど、管理を徹底するルールを設けましょう。

よくあるQ&Aで不安を解消

最後に、よくいただくご質問にお答えします。

Q. 通知しないファクタリングは違法?

A. 2社間ファクタリング自体は、債権譲渡登記などを利用することで、法的に問題なく行えるスキームです。違法ではありません。
しかし、本記事で解説したように、取引先との契約内容や、利用後の管理方法によっては、契約違反や思わぬトラブルに発展する可能性があります。

Q. 相手にバレると契約違反になる?

A. あなたと取引先との間で交わした契約書に「債権譲渡禁止特約」があれば、契約違反に問われる可能性があります。
まずは、ご自身の契約書を改めて確認することが重要です。

Q. バレずに済んだ事例はあるの?

A. はい、大半の2社間ファクタリングは、利用者がルールをきちんと守り、期日通りにファクタリング会社へ送金することで、取引先に知られることなく完了しています。
大切なのは、「バレるか、バレないか」の賭けをするのではなく、「万が一の事態が起きないよう、誠実にルールを守る」という姿勢です。

まとめ

今回は、「取引先に内緒でファクタリングを利用したい」というテーマについて、法的なポイントと実務上のリスクを解説しました。

  • 「内緒」で使える2社間ファクタリングは存在するが、「絶対にバレない」保証はない
  • 法律(民法)上、債権譲渡には「通知・承諾」が原則。2社間では「債権譲渡登記」で代替する
  • 送金遅延や二重譲渡は、信頼関係の崩壊や犯罪に繋がる絶対NG行為
  • まずは取引先との契約書を確認し、信頼できるファクタリング会社を選ぶことが重要

「内緒にしたい」というそのお気持ちは、事業と従業員を守りたいという責任感の表れだと思います。

だからこそ、その大切な想いをリスクに晒さないでください。

法律と実務のギャップを正しく理解し、ご自身の会社にとって本当にプラスになる選択をする。
この記事が、そのための冷静な判断材料となれば、これほど嬉しいことはありません。

もし少しでも不安があれば、契約を結ぶ前に、信頼できる専門家に相談する勇気を持ってくださいね。

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